『じゃあ、あんたが作ってみろよ』はどんなドラマ?完結まで見て分かる作品の構造

「亭主関白男が反省して成長する話」「古い価値観をアップデートする啓蒙ドラマ」

放送前や初回放送時には、そんなイメージで受け取られていた方も少なくなかったかもしれません。

確かに設定だけを見ると、現代的な価値観や家庭内の役割分担をテーマにした、分かりやすい社会派ドラマのようにも見えます。

そのため、少し身構えてしまった人がいたのも自然だと思います。

ただ、全10話を通して視聴してみると、この作品が描いていたのは「正しさを教える物語」というよりも、もっと個人的で、不器用な人間同士のすれ違いや迷いでした。

完結まで見て初めて、このドラマの本当のトーンが見えてくる構造になっていたように感じます。

この記事では、あらすじを追うのではなく、全話視聴したうえで感じた空気感や描かれ方をもとに、『じゃあ、あんたが作ってみろよ』がどんな作品だったのかを整理していきます。

作品の基本情報とジャンル感

『じゃあ、あんたが作ってみろよ』は、2025年10月から12月にかけてTBS系火曜ドラマ枠で放送された連続ドラマです。

原作は谷口菜津子による同名漫画で、W主演を夏帆と竹内涼真が務めました。脚本は岸田國士戯曲賞を受賞した安藤奎が担当しています。

ジャンルとしては「再生ロマンスコメディ」とされていますが、実際の内容は恋愛要素だけに寄ったものではありません。

大きな事件や派手な展開は控えめで、日常の会話や人間関係のズレを積み重ねることで物語が進んでいきます。

そのため、テンポの良いラブコメを想像していると少し印象が違うかもしれませんが、登場人物の感情や選択の変化を丁寧に追いたい人には向いている作品だと感じました。

世間で感じられた第一印象

放送開始当初、SNSや感想を見ていると、次のような受け止め方が目立っていた印象があります。

  • 「料理は女がするもの」という価値観を糾弾する説教ドラマ
  • 男性側の反省と成長を描く内容
  • 価値観の違いをテーマにした社会的な作品

こうした印象は、設定やキャッチコピーから想像すると自然なものです。

ただ、実際に物語を追っていくと、誰か一人が「正解」を示したり、分かりやすく価値観を更新して終わるような構成ではありませんでした。

最終回まで見て分かる作品のトーン

全話を通して強く感じたのは、このドラマが「正しさの提示」よりも「迷いの描写」に重きを置いている点です。

確かに勝男の価値観の変化は描かれますが、彼は常に正解にたどり着くわけではありません。

母親との関係に苛立ったり、仕事で空回りしたり、鮎美への未練を引きずったりと、成長途中の不完全さが繰り返し描かれます。

一方の鮎美も、「自分らしさ」を取り戻したように見えながら、ミナトとの関係では同じようなパターンを繰り返してしまったり、詐欺に遭ったりと、現実は簡単ではありません。

爽快に問題が解決する展開ではなく、試行錯誤しながら少しずつ前に進む姿が描かれているため、視聴後には静かな余韻が残る作品だったと感じました。

この物語が投げかけている問い

この作品を通して一貫して描かれていたのは、

  • 「自分らしさとは何か」
  • 「誰かのために生きることと、自分のために生きることは両立するのか」

という問いだったように思います。

鮎美は勝男のために自分を抑え続けた結果、自分が何を好きなのか分からなくなっていました。

一方の勝男は、自分が正しいと信じて疑わなかったがゆえに、相手の負担に気づけませんでした。

二人とも相手を思っていたはずなのに、結果的にはすれ違っていた。

このドラマは「誰が悪いか」を断定するのではなく、「なぜそうなったのか」を丁寧に掘り下げていきます。

価値観の違いだけでなく、コミュニケーションの不足や自己理解の浅さが、少しずつ浮かび上がってくる構造でした。

主人公・登場人物の描かれ方

勝男は「亭主関白男」という分かりやすい記号で語られがちですが、作中では悪意よりも善意によって相手を傷つけてしまう人物として描かれています。

問題は価値観そのものというより、自分の考えを疑わない視野の狭さにあったように見えました。

鮎美もまた、単純な被害者としては描かれていません。

彼女は戦略的に「モテ」を追求し、ハイスペックな結婚を目指してきた過去があります。その選択自体は否定されませんが、その過程で自分を見失ってしまったことが、物語の出発点になっています。

椿、ミナト、渚、南川といった他の登場人物たちも、それぞれが「自分らしさ」と「他者との関係」のバランスを模索しており、誰か一人が正解を示す構図にはなっていません。

なぜ単純な啓蒙ドラマで終わらないのか

もしこの作品が「古い価値観を持つ男が反省して変わる話」だけであれば、勝男が料理を覚えて謝罪すれば物語は終わっていたはずです。

しかし実際には、勝男が変わったあとも二人の関係は簡単には元に戻りません。

鮎美も新しい恋愛で同じようなつまずきを経験し、人生は一直線には進まないことが描かれます。

このドラマは、「正しい価値観を学べば幸せになれる」という単純な図式を描いていません。

価値観を更新しても、自己理解を深めても、人間関係は複雑で、答えがすぐに出るものではない。その現実を静かに提示しているように感じました。

また、勝男と母親の関係や、鮎美の家族との距離感など、恋愛以外の人間関係にも丁寧に触れている点も、この作品を単純化させない要素だと思います。

向いている視聴者・向いていない視聴者

この作品は、好みが分かれやすいタイプのドラマです。

向いていると感じる人

  • 結論よりも過程を楽しめる
  • 登場人物の内面の変化をじっくり追いたい
  • 恋愛だけでなく、自己理解や家族関係にも関心がある
  • スッキリしない余韻を受け入れられる

向いていないかもしれない人

  • 痛快な展開や強いカタルシスを求める
  • 明確な勧善懲悪を期待する
  • テンポの良さを重視する
  • ロマンスの甘さを第一に求める

視聴後に「スッキリした」というより、「いろいろ考えてしまう」タイプの作品だと言えそうです。

今後の評価はどうなりそうか

放送終了直後の段階では、「地味だった」「期待と違った」という声と、「丁寧でリアル」「じわじわ良さが分かる」という声が分かれている印象があります。

ただ、この作品が扱っているテーマは、時代を超えて普遍的なものです。

数年後に見返したとき、「当時は気づかなかったけれど、今なら分かる」と感じる場面が増えるタイプのドラマかもしれません。

原作者の谷口菜津子さんも、価値観の変化を一方的に示すのではなく、考えるきっかけとして描いたとコメントしています。

その姿勢が、時間をかけて評価されていく可能性はあるように思います。

まとめ

『じゃあ、あんたが作ってみろよ』は、設定だけを見ると社会的メッセージが前面に出た作品に見えるかもしれません。

しかし実際には、個人の内面や人間関係のズレを丁寧に追った、静かなドラマでした。

勝男も鮎美も、最後まで完璧な存在にはなりません。

それでも少しずつ自分と向き合い、相手と向き合おうとする姿が描かれています。

「正しさ」を教えるドラマというより、「難しさ」を一緒に考えるドラマ。そんな位置づけが、この作品にはしっくりくるように感じました。

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